lost 02 地獄への招待状 3

資産家や大手企業の社長などの金持ちが住む豪華な家が延々と並んでいる高級住宅街。
その中でもいっそう豪華な家、その家には“宮原”と書かれた表札があり、その後ろには芝生に囲まれた庭が十メートルほど続き、奥には立派な豪邸が建っている。宮原邸には、周りの豪華な光景からはかけ離れた迷彩服の男数人――大東亜共和国の政府の役人が来ていた。
停められた車のドアを、一人の迷彩服が開ける。それを待ちわびていたかのように、中からすぐさま男が一人姿を現した。
男は漆黒のスーツを着こなし、胸の辺りに“高梨”とかかれた名札をつけている。
高梨は宮原家の豪邸の前まで来ると、A4サイズの用紙を何枚か取り出して、軽く目を通す。
用紙を脇に挟みチャイムを押すと、しばらくしてスピ―カ―から女の声が聞こえてきた。さすがは金持ちの家だ、対応は使用人がするものなのか。そう思ったが、そんなくだらないことを考えている暇などない。高梨はすぐさま用件を伝える。
「政府プログラム管理課の高梨という者だが、宮原敬三は在宅か?」
「社長はただいま外出中です。どのようなご用件で?」
使用人が丁寧な口調でそう聞くと、男はすんなりと答えた。
「宮原敬三の娘、宮原沙智のクラスが今年度のプログラム対象クラスに選ばれた。その同意をいただきたい」
使用人はあまりのことに言葉を失った。小さい頃から世話をしてきたあの沙智がプログラムに選ばれたなどと突然言われても、彼女はどう対応して良いか分からない。
「も、申し訳ありませんが、敬三は明日12時ごろにならないと帰宅されませんので改めてお越しください……」
「……わかった」
使用人の声は最初と違い、明らかに動揺している声だった。どうやら、沙智のプログラム参加の事実に相当のショックを受けたらしい。
高梨は、スピーカー越しに通話を遮断するのを確認すると、宮原邸を後にした。持っていた鞄に手を入れ、紙を数枚取り出すと、次の家は――……とぶつぶつと独り言を言いながら車の中へと戻って行った。
この日、3年C組の生徒たち全員の家に政府の役人がプログラム参加への同意をもらいに押しかけていた。当然反抗する親もいたが、その親たちは政府の役人によって愛しき我が子よりも一足先に生涯を終えていった。



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