lost 26 亡き者告げられる時

「宮原……宮原、起きろよ」
「……?」
誰かに名前を呼ばれ、沙智は覚醒した。薄暗い世界が、沙智の目の前に広がる。
「起きたか?」
光と闇が入り混じった世界に突如声が浴びせされる。その声は沙智がよく知っている声――自分は今どこに――……?
「宮原? 大丈夫か?」
「あ! し、真也君……!?」
覚醒が脳まで達した沙智は、真也にもたれかかって眠っていたことに、そして自分が今、プログラムという状況にいることに、ようやく気がついた。
沙智が顔を上げると、真也の笑った顔が目に飛び込んできた。大笑いとまではいかないが、沙智の顔を見て世にもおかしそうに笑っている。
「な、何がおかしいの……?」
「だってさ、お前超熟睡してんだもん。根性太いな―……って」
眠る前、真也と1時間たったら起こしてほしいと言ってから眠ったはずだ。わずか1時間で熟睡にまで陥ってしまうことはないはず。沙智の記憶と真也の言葉が上手くかみ合わない。沙智はすぐさま真也に時間を問いただした。
「え? 今何時?」
「6時ちょっと前。宮原、3時間以上寝てたんだぜ?」
よほど疲れていたのだろうか。屋外で3時間も眠ることなど沙智にとってもはじめての経験だった。ほとんどの生徒が屋外で夜を過ごすこと自体はじめてなのだろうが。
「あ……ごめんね……眠りすぎちゃって。真也君寝てないんだよね? 今からでも寝ておいたほうがいいんじゃない?」
ゲ―ムに乗った生徒が目立ち始める今日、いくら体力のある真也でも睡眠を一切とらずに1日中動き回るのはどんんなに体力のある人間でもつらいものがあるだろう。
だが、真也はさらりと沙智の提案を否定した。
「いや……でもあと30分で放送入るから聞かないとだめだろ? 俺は大丈夫だからさ、気にすんな」
気にするな、と言われても気休めにしかならない。今日1日動き回る体力を真也は溜められてはいないだろう。それに加え疲労は溜まったまま。真也は体力上極限まで追い詰められた状態で今日を過ごさなくてはいけなくなる。
何時間か眠った沙智でもあまり疲れはとれていないため、真也の体が心配だ。
「本当に大丈夫……? 無理しないでね。お、襲われたりしたら私が……戦うから」
せめてもの償いとしてそう言っておく。
「お前こそ3時間だけで大丈夫か? あの熟睡の様子を見るとまだあと10時間くらいは寝そうな勢いだったぞ?」
「な……! そんなことないよ!」
沙智は真也の冗談により、また話をごまかされてしまった。
だが、それは真也が沙智に余計な心配をさせないための気遣いなのだと考え、それ以上は何も言わなかった。
「……そろそろだな」
「え?」
突然の真也の言葉に妙な返事をしてしまった沙智。だが、その言葉の意味を沙智はすぐ知ることになる。
ぶつん、と何かが切れたような音がした後、あの男の声が聞こえてきた。
「おはようございます。定時放送です。禁止エリアと死亡者を発表するので皆さん地図と鉛筆を用意してください」
プログラム担当教官藤嶺は、相変わらず無愛想で冷静な声で1回目の定時放送を開始した。親切に生徒たちが地図などを用意する間を与え、再び話し始める。
「まずは死亡者から。女子21番、桃井凛さん、女子6番、黒土青葉さん、男子3番、加島強君、女子22番、山田葵さん、男子2番、宇佐美桐人君、女子15番、間宮桜さん、女子5番、地麻さん……以上です。男子の死亡者が少ないのが目立ちますね。これからは出会った人は殺すくらいの気持ちで挑んでください。
それでは続いて禁止エリアの発表です。
学校の周りのE-5、F-6、E-7、D-6はすでに禁止エリアに指定されているので注意してください。
7時からC-6、9時半からG-9、10時からF-10、11時からE-2、以上です。
それでは、引き続き頑張ってください」
最初と同じように、ぶつん、と乱暴な音の後、放送が切れた。
沙智と真也は禁止エリアを地図に書き込むと、しばらく黙った。
黙った理由は双方が同じ、死亡者リストの中にある名前が入っていたからだ。
加島強(男子3番)は、沙智との戦闘により後頭部をトンファ―で打たれ、気絶した。そこで真也と出会い、沙智は別の場所へと移動してしまったが、その後目を覚まして目立海斗(男子18番)との戦闘で命を落とした。
強が海斗とであったことを知らない沙智は、自分が殺したのだと勘違いを起こしていた。もちろん、真也も沙智と同様に沙智が強を殺したのではないかと思っている。
考えてはいけない、そう思いながらも、強の死というごまかしようのない事実と真也の中の妄想が結びつき、強を殺したのは沙智ではないのかと思う。
だが、隣でその事実にショックを受けている沙智を見て、真也はすぐに言葉をかけた。
「あ、え―っと、どうした宮原? 大丈夫か?」
「加島君……やっぱり私が殺したのかな? もしかしたらあの後意識を取り戻してまた誰か他の人を襲って逆に……そう考えたほうが妥当だと思う。性格とか、あの時の態度見る限りではね。
だけどそれが本当かどうかは分からないから……もしかしたら私が加島君を殺しちゃったのかもって思っただけだから……」
「宮原が殺すはずないだろ? あれは正当防衛だし、いくら宮原でもトンファ―ごときで人を殺すことなんて出来るはずない。大丈夫だ。きっと他の……ゲ―ムに乗ったやつが殺したんだよ」
真也は懸命に説得する。沙智はこれ以上真也に余計な心配をかけたくないと思い、小さくうなずいた。
「ところでさ、俺たちは今E-4にいるから、とりあえずは大丈夫なんだよな?」
これ以上心配をさせないように、真也は話の重点を移動させた。
先ほどの放送でE-4は禁止エリアに入っていなかった。そのため、少なくとも6時間後の午後12時まではこの場にいて首輪が爆発することはないようだ。
「うん、けど裕香とか探したいから……多分動くことになるよ。
今回の放送で名前は呼ばれなかったからまだ無事でいるみたいだけど、でも早いうちに探さないと誰かに襲われたら……きっと助からないから」
「ああ、そうだな。とりあえず荷物まとめるか。いらないものはここに捨てていって少しでも荷物軽くしたほうがいいだろ?」
「そうだね、じゃあ準備しようか」
こうして、沙智と真也はようやく当初の目的である仲間探しへと向かう準備を始めた。着替えなどは置いていき、食料と地図、懐中電灯、筆記用具、絆創膏などの持ち合わせている全ての救急セット、止血などに使うタオル、夜間用の上着など、日常生活では1日分の荷物と言っても過言ではないくらいの少ない荷物をデイパックに詰め、一晩過ごしたこの場を離れ、2人は歩き始めた。



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